事業承継やオーナー経営者の相続対策に関わっていると、時折出てくるのが「少数株主」の問題です。
普段は特に表面化せず、長年そのままになっていることも少なくありません。しかし、放置したまま事業承継や相続の局面を迎えると、会社経営そのものに影響を及ぼすことがあります。
まず確認していただきたいのは、自社の株主構成です。
中小企業の場合、株主は一般的に
・株主名簿
・決算書の別表二
などで確認することができます。
その中に、
「この人は誰だろう」
「名前は聞いたことがあるが関係性が分からない」
「先代時代の人物で詳細を知らない」
といった株主が含まれている場合は注意が必要です。
少数株主はなぜ生まれたのか
そもそも、なぜ中小企業に少数株主が存在するのでしょうか。
背景として大きいのは、旧商法時代の会社設立要件です。
平成18(2006)年5月に会社法が施行される以前は、株式会社設立にあたり、
・取締役3名以上
・監査役1名以上
といった要件がありました。
そのため、設立時に友人・知人・親族へ声をかけ、形式的に役員や株主になってもらうケースが多く存在しました。
また当時は、「名義株」と呼ばれる状態も珍しくありませんでした。
これは、実際には出資していない、あるいは株主になる意思がないにもかかわらず、名義だけ借りて株主になっている状態です。
創業当初は「身内だから大丈夫」「形式だけだから問題ない」という感覚で進められたものが、何十年もそのまま放置されているケースがあります。
少数株主が持つ権利
「少数しか持っていないのだから影響は小さい」と考えられがちですが、実際には株主にはさまざまな権利があります。
例えば、1株だけでも株主総会での議決権を持ちます。また、株主代表訴訟を提起することも可能です。
さらに一定割合を超えると、より強い権利を持つことになります。
代表的なものとしては、
・3%以上
帳簿閲覧請求権
株主総会招集請求権
・10%以上
会社解散請求権
検査役選任請求権
などがあります。
また、特別決議事項に対する影響力も重要です。
合併や事業譲渡、定款変更など、会社の根幹に関わる事項は「特別決議」が必要となります。
この特別決議は、一般的に出席株主の3分の2以上の賛成が必要です。そのため、3分の1超を保有する株主がいる場合、単独で拒否権に近い力を持つことになります。
実務上は、16.7%程度でも株主総会の出席状況によっては大きな影響力を持つケースがあります。
つまり、「少数株主」といっても、決して軽視できる存在ではありません。
問題は“他人の手に渡った時”に起きる
創業者が元気で、株主との関係性を把握している間は、大きな問題になりにくいものです。
しかし問題は、その株が次世代へ移った時に起きます。
中小企業では通常、「譲渡制限株式」を採用しています。
これは、会社の承認なしに第三者へ株式を売却できない仕組みです。
ところが、相続は別です。
株式は、株主に相続が発生すると自動的に相続人へ承継されます。
さらに相続人が複数いる場合、「準共有」という状態になることもあります。
こうなると、
・誰が議決権を行使するのか
・売却に応じるのか
・そもそも会社に関心があるのか
といった問題が発生します。
創業者時代には問題にならなかった株式が、世代交代をきっかけに突然リスクへ変わるのです。
「売渡請求」という考え方
このようなリスクに備えるため、会社法では「売渡請求」という制度があります。
これは、株主に相続等が発生した際、会社がその株式を買い取ることができる制度です。
ただし、自動的に使えるわけではありません。
定款に定めておく必要があります。
最近では、事業承継対策の一環として、この条項を整備する中小企業も増えています。
もっとも、実際に買い取る際には価格交渉が必要となるため、簡単に解決するわけではありません。
それでも、「誰が株主になるか分からない」という状態を放置するよりは、はるかに管理しやすくなります。
少数株主問題は“経営問題”でもある
少数株主問題は、単なる法務論点ではありません。
見知らぬ株主や、会社への理解がない相続人が権利を主張し始めると、
・事業承継が進まない
・金融機関対応に影響する
・重要な経営判断が停滞する
といった形で、経営そのものに影響を与える可能性があります。
特にオーナー企業では、「株式=経営権」です。
その整理を後回しにしたまま、相続対策や事業承継だけを進めることは危険です。
まず確認すべきは“株主”
事業承継というと、
・自社株評価
・後継者育成
・相続税対策
などに目が向きがちです。
もちろん重要ですが、その前提として、
👉 「そもそも誰が株主なのか」
を整理する必要があります。
創業者の目が黒いうちに、株主構成を確認し、必要に応じて整理を進めること。
これが、安定した事業承継の第一歩ではないでしょうか。
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