その生命保険、本当に受け取れますか?

会社で生命保険に加入している経営者は少なくありません。
借入金の返済資金として。
あるいは当面の運転資金や従業員給与の確保のため。
経営者に万が一のことがあった場合に備え、多額の死亡保険金を準備している会社も多いでしょう。

しかし、私たちは時折、こんな質問をします。
「その生命保険金を受け取る時の、具体的なイメージはできますか?」
すると意外なほど多くの経営者が言葉に詰まります。
生命保険の加入目的や保険金額は検討していても、実際に保険金を受け取る場面まで具体的にイメージできている会社は決して多くありません。


保険金は自動的には振り込まれない

例えば、
契約者:山田商事株式会社
被保険者:代表取締役 山田太郎
という法人契約の生命保険があるとします。

山田社長に万が一のことがあれば、支払事由に該当し、免責事由等がない場合、保険会社は保険金を支払います。
しかし当然ながら、保険会社が勝手に会社口座へ振り込むわけではありません。
保険金請求には、
・請求書類への記入
・会社印の押印
・必要書類の提出
などが必要です。
つまり、誰かが会社を代表して請求手続きを行わなければなりません。
では、その「誰か」は誰でしょうか。


後継者は本当に決まっていますか?

経営者が亡くなった直後、会社には様々な問題が発生します。
・金融機関への連絡
・取引先対応
・従業員への説明
・葬儀対応
その中で保険金請求も行わなければなりません。
しかし、その時点で後継者(次の社長)が正式に決まっていないケースは珍しくありません。

奥様でしょうか。
ご長男でしょうか。
ご兄弟でしょうか。
あるいは長年会社を支えてきた番頭さんでしょうか。
しかし実は、経営者の頭の中では決まっていても、「法的には決まっていない」というケースが数多くあります。


次の社長は誰が決めるのか

中小企業では、
「息子に継がせるつもりだから大丈夫」
という話をよく耳にします。
しかし、会社法上は社長が後継者を指名するだけでは代表取締役にはなれません。
取締役の選任や代表者の選定には手続きが必要です。
その前提となるのが株主です。

つまり、
誰が株式を相続するのか
が極めて重要になります。


株主対策をしていない会社は意外と多い

以前のコラムでも少数株主問題について触れましたが、
・現在の株主は誰か
・持株比率はどうなっているか
・誰に承継させたいのか
を正確に把握していない会社は少なくありません。
経営者が亡くなると、自社株も相続財産になります。
相続人が複数いる場合、
・遺産分割協議
・株式の帰属決定
・株主総会
などを経て初めて経営体制が整います。
その間にも会社は営業を続けなければなりません。


保険金は「時間を買うお金」

生命保険の本質は何でしょうか。
資産形成でしょうか。
役員退職金作りでしょうか。
もちろんそれらの側面もあります。

しかし法人契約の生命保険において最も重要なのは、「事業継続のために会社に時間を与えること」
だと私は考えています。

経営者に万が一のことが起きた時、
・借入返済を急がなくて済む
・従業員給与を払える
・取引先への支払いを継続できる
つまり、慌てて会社を売却したり、資金繰りに追われたりすることなく、冷静に後継者を選び、事業承継を進める時間を確保するためのお金とも言えるわけです。


遺言は強力な事業承継対策

そこで重要になるのが遺言です。
遺言というと、
・自宅
・預金
・有価証券
など全てを細かく決めなければならないと思われがちです。

しかし必ずしもそうではありません。
例えば、
「自社株は長男に相続させる」
という内容だけでも大きな意味があります。

この遺言により自社株の承継先を明確にしておけば、遺産分割協議を待たずに後継者へ株式を承継させやすくなり、経営権の安定につながる可能性があります。
つまり議決権が長男に集中し、社長就任や社長としての生命保険金請求が可能になります。
株式の承継先が明確になることで、
・経営権が安定する
・後継者選定がスムーズになる
・保険金受領後の意思決定が早くなる
といった効果が期待できます。
(遺言に書いていない資産は遺産分割協議の成立を待たなければなりません。その点では、
故人の名義になっている、事業継続に必要な自社工場なども遺言の対象とした方が良いです)


保険証券は見直しても、株主名簿は見ていない

多くの経営者は保険証券を定期的に確認します。そのサポートも行っています。
保険料はいくらか。
保障額はいくらか。
受取人は誰か。

しかし、
・株主名簿
・定款
・遺言

については何年も見直していないケースが少なくありません。
本来、生命保険は単独で機能するものではありません。
事業承継対策、株主対策、遺言対策と組み合わさって初めて本来の役割を果たします。


まとめ

会社で生命保険に加入していること自体は大切な備えです。
しかし、それだけでは十分ではありません。
重要なのは、
「その保険金を誰が受け取り、何のために使うのか?」
まで考えておくことです。

もし、
・後継者が曖昧
・株主構成を把握していない
・遺言を書いていない
という状況であれば、一度立ち止まって確認してみることをお勧めします。
生命保険は、経営者が亡くなった後の会社を支えるためのものです。
そして、その力を最大限に発揮するためには、保険証券だけでなく、事業承継の準備そのものが必要なのです。

※実際の保険金請求や事業承継の手続きは、契約内容・会社の定款・株主構成・相続関係等により異なります。個別のケースでは、専門家に確認しながら進めることをお勧めします。
(FD00332)