中古車ディーラーの問題、カルテル、大手乗合代理店に対する過度な利益提供。
そして今回、一部の保険販売社員による顧客からの金銭詐取――。
ここ最近、保険業界を取り巻く報道は、正直なところ胸が苦しくなるものばかりです。
この業界に長く身を置き、育てていただいた一人として、本当に申し訳ない気持ちと、強い危機感を感じています。
お客様や関係者の方から心配の声をいただくことも増えました。
FPSとしては、日々の朝礼や研修の中でコンプライアンス事案の共有を行い、「絶対に事故を起こさない」という意識づけを徹底しています。
ただ、正直に言えば――
こうした事件がゼロになることは、おそらくありません。
医師でも、弁護士でも、警察でも、教員でも、どんな職業であっても一定の割合で不祥事は起きてしまう。
それが現実です。
だからこそ大事なのは、「なぜ起きるのか」という構造を見誤らないことだと思っています。
今回の一連の問題では、「保険業界の手数料の払われ方」、特に歩合制が議論の俎上に上がっています。
歩合制が不正の温床なのではないか、という声です。
しかし、この点については私は少し違う見方をしています。
私自身、保険業界に入ってからの15年間は完全歩合の世界で鍛えていただきました。
大きく稼がせていただいたこともありますし、逆に苦しい時期も経験しました。
歩合そのものが悪いとは思いません。
もしそれを否定するのであれば、不動産や証券の世界も成り立たなくなりますし、個人代理店という存在そのものも否定されてしまうでしょう。
問題の本質はそこではなく、
「好調な時に上がった生活水準を、落ちた時に戻せるかどうか」
にあるのではないかと感じています。
経営者や富裕層と本気で向き合い、大きな契約をお預かりしようとすれば、ある程度は同じ目線で会話ができる関係性が必要になります。
同じ場所に行き、同じ時間を過ごし、同じ価値観に触れる。
それ自体は営業として否定されるものではありません。
しかし一度その水準に上がると、売上が落ちた時や大きな解約があった時に、それを下げることができなくなる。
そのときに、良くない行動に走ってしまう――。
業界にいる者として、その構造は理解できてしまいます。
正直に言えば、そうした誘惑が心をかすめたことが一度もないかと言われれば、きれいごとでは済まない部分もある。
特に保険は「情報の非対称性」が大きい仕事です。
だからこそ、この誘惑はより強く働いてしまうのだと思います。
では、どうあるべきか。
私は「歩合か固定か」という議論ではなく、
“どう支払われるか”の設計の問題だと考えています。
短期的に大きく支払われる仕組みであれば、どうしても「作っては乗り換える」という行動が誘発される。
一方で、契約を長く続けていただくことで、継続的に報酬が支払われる仕組みであれば、営業の行動は大きく変わります。
すでに一部の保険会社では、こうした「L字型」の手数料体系が導入され始めています。
売って終わりではなく、アフターフォローにしっかり取り組むことに対して対価が支払われる。
この流れは、今後さらに強まっていくでしょう。
ただし、ここで一つ、代理店経営という観点から見ると別の課題も見えてきます。
特に内部留保の薄い中小・零細代理店にとっては、かなり厳しい環境になります。
新しく人が入ってきた場合、軌道に乗るまでの1年、2年は人件費の赤字を抱えながら育成する必要があります。
これまでは初年度の手数料である程度カバーできた部分が、今後はより薄く、長くなる。
つまり、損益分岐点に到達するまでの時間がさらに延びるのです。
そうなるとどうなるか。
経験の長い募集人は残りやすくなりますが、
未経験の若い人材を採用し、育てることが難しくなっていく可能性があります。
結果として、業界全体の平均年齢は上がり続け、
いずれ「人がいない」という問題に直面するかもしれません。
だからこそ、代理店側もこの変化を前提にした経営が必要になります。
・AIなどを活用した業務効率の向上
・個人ではなく“代理店として”信頼を獲得すること
・業務提携などを通じた安定的なマーケットの確保
・そして、自社の理念や強みを明確に発信し続けること
「営業して仕事を取りにいく会社」から、
「評価されて仕事が来る会社」へ。
この転換が、これまで以上に重要になると感じています。
今回の一連の報道は、確かに業界にとって逆風です。
しかし見方を変えれば、「本来あるべき姿」に近づくための過程でもある。
そう捉え、私たちは正面から向き合い続けたいと思います。
(FD00297)